第6節 工事仕様
一、仮設工事
修理工事着手と同時に左記建物を建設し、工事終了後に撤去してそれぞれ処分した。本堂の建てられている位置は大門の北140m距て、大門前の道路面よりの水平面の差が約20mある。とくに本堂の建つ地盤の前面には50段のかなり急勾配の石階段があり、ここまで自動車が入らないため、資材の運搬を考慮した結果、近年、当地方で果樹の栽培に使用しているモノレール式の運搬機(日本産業機械株式会社製NTモノレール・オレンジポーター)を業者損料として施設し、各資材や物品の運搬に使用し人力による労力を省いた。
(1)軒足場(桟橋付)
桁行20.8m(九間)梁間21.4m(十間)、足代高3.45m建面積(向拝張出共)470.62u、建地真々2.2m内外に根入30p以上堀立とし、飛付丸太は地上約2m、その他布丸太は1.3m内外に配した。東側面と背面に外方より控柱3〜4本取付け、足場の四隅には燧梁を入れてそれぞれ十番なまし鉄線をもって搦み付けた。
外部は飛付丸太以上にビニール製すだれを張り、棚は軒先より90p下に設け根太は一間に3本ずつ配り、歩み板は厚3pの松板を巾2mに敷並べて根太に釘打とした。
登り桟橋は建地外方に登り桁を取付け、桟橋根太は1m間に置渡し、歩み板は道巾1.3m間に敷並べ根太毎に釘打ち、登り30p間隔に辷り止めの桟打ちとした。
建物内は適宜に移動足場を組み作業を行った。
(2)工作小屋 一棟
桁行10.8m、梁間11.5m、軒桁高2.4m、建面積114.2u。
材料保存小屋はシート及び亜鉛引波型鉄板にて、必要に応じて適宜に作り使用した。工作小屋は素屋根に準じて建設し、軒足場の正面に差掛けに作り、西及び南面を板張りとした。建地柱は1.8m間に堀立てとし、屋根は亜鉛引波型鉄板にて片流れに葺き、中央部に塩化ビニール製波板を明り取りに取付けた。
工作小屋の隅に道具小屋を作り周囲板張りのうえ出入口を施錠付としたほか、事務所より電気配線し、信号用ベル及びダブルコンセント各1カ所を設け、事務所内にタンプラスイッチを取付けた。また隅に研場を設け水道を設置した。
(3)作業員休憩所 一棟
桁行4.5m、梁間3.6m、軒桁高2.2m、建面積16.2u。
片流れ造り、屋根亜鉛引波型鉄板葺。建地丸太は約1.5m間隔に堀立てとし、桁、母屋とも十番なまし鉄線搦み、屋根100分の15勾配に鉄板を母屋に架渡し、周囲は建地に貫三通り入れ、外部より亜鉛引波型鉄板張りとした。
出入口に片開戸を付け、窓は引違ガラス戸建込みとした。内部の周囲に腰掛を取付け、中央部に煙突付暖炉を設けた。
(4)便所 一棟
桁行2.0m、梁間1.9m、軒桁高2.5m、建面積3.8u。
片流れ造り、屋根及び外部壁亜鉛引波型鉄板張り。柱は堀立てとし、土台、柱、桁、床板材とも米栂挽立材。大便所は片開き板戸付、便槽はコンクリートブロック積みモルタル塗とし、外部より汲取口を設け臭突付とした。
(5)境界柵 延 42m
米栂角柱を約2m間隔、高1.7mに堀立てに建て、控柱は隔間毎に取付け、上下胴縁に#23、3.2p目亀甲型のラス張り釘留めとし、上下に有刺鉄線を取付けた。本堂正面は開放とし東側に出入口1カ所を設けた。
(6)事務所 一棟
桁行7.2m、梁間5.4m、軒桁高2.88m、建面積38.88u。
簡易組立式事務所平屋建。事務室、休憩室、暗室、湯沸室、物入を設け、出入口には50p巾のコンクリート叩きとし、休憩室は畳敷きその他フローリング板張りとした。
基礎は丸太打込み土台を鎹止めに控え大引、根太を架渡し床板張りとした。軸部はボールト及びアングルで締め、筋違は鋼棒を交叉して取付け、下地オイルペンキ仕上、屋根は長尺カラートタン#30を継手馳掛け平頭鋲でとめた。
天井はラワンベニヤ、パネル板組立式オイルペンキ塗とするほか、壁体パネルも同様とした。窓はガラス戸引違い、出入口は引違腰高ガラス戸その他ベニヤフラッシュ戸とし外部の戸は施錠付とした。
水道は本堂脇の井戸よりモーター付ポンプにより湯沸場まで配管し、各室に天井照明設備及びコンセント等の器具を取付けた。
二、木工事
今回の修理は屋根葺替が主であり、木工事としては野地の大部分と小屋組、軒廻り、縁廻りの一部について不良部分のみの補修と現状変更による雑作を行った。
このため、解体は向拝の軒廻り材に解体番号を附した程度で、その他はその都度、現場合わせで行った。
各部材は腐朽、破損、現状変更その他の事由により止むを得ず取替えを要するものの他は、旧来のものを出来得る限り再用し、古材の一部には埋木、矧木、継木等を施して極力保存修理の方針に努めた。
新たに補足したものは形式、手法を調査して、旧規にならい加工し、曲線または絵様のあるものは、図面および型板を作り、正確に施工した。
これらの新補材のうち、化粧材には官材の檜または台檜を使用したが、小屋、野地、床材等の野物材は地元産の檜、杉材を使用した。
取替材は雑作材、化粧野地板材等は上小節、軒廻材、縁板材等は小節材、野物材は一等赤味勝材とし、いずれも歪曲、腐朽、陽疾などの欠点のない良材とした。
補足する材の形式、寸法は旧来のものに倣い、継手、仕口も旧法を踏襲して施工した。各部材のうち、特に耐久力を要するもの、または不完全と思われる構造上の要所には見え隠れに添木、鉄金物などをもって補強し堅固に組立てた。
各部の補修箇所は次の通りである。
一、軒裏甲は身舎両妻部及び同正面より向拝破風板にかけては比較的良好であったので残し、その他は全部取替えた。また、瓦座は裏甲より軒唐草瓦の落着きまでの寸法が3pと低く取付が悪いため、今回は5pにとり瓦割も異ってきたので全部を取替えた。
一、飛擔タルキは東面の背面側に虫害を受けたタルキが見受けられたので、この箇所で4本を取替 え、向拝打越タルキは42本中7本を取替え9本に鼻先部の補修を行った。向拝丸桁上には従来面戸板が入っていなかったが、古い打越タルキに面戸板の突止めの仕口が見られたので今回復旧しておいた。
一、縁板は各隅部が風雨による損傷が大きかったので、西北隅を除いた各隅と西側の前寄りの部分について補修し、従来通り板傍に3カ所駄○入れ、忍釘打のうえ引鎹打ちにとめた。
一、内陣正面三間のうち、西端間の中備斗○のうち内陣側で白蟻の破害の大きい巻斗一箇 を取替えたが、天井が外せないのでジャッキで天井縁を若干上げ差込みとした。
一、背面の木階段は簓桁2枚と階段板1枚を取替え、防腐剤を塗布し従来通りに取付けて おいた。
一、両脇陣に今回現状変更で復旧した間仕切は、部材及び溝等の寸法、仕口とも内陣廻りの旧材に倣い取付けた。
一、側柱通りの足元は従来開放であったので、犬除け柵を新設した。
一、桔木は東北隅部の2本が白蟻の被害を受け、西面の前寄りの1本が折損、向拝部は1本が腐朽のためそれぞれ取替えた。また、東北隅の化粧隅木は隅柱上で大きな虫害を受けているため厚18p長6.4mのタイコ落し材を小屋内に重ね、両者をボールト締めとして再用し、また、この部分の野隅木も取替えた。
一、母屋は背面側は下より3通りの全部、両側面は鼻母屋の全部と側柱通りの一部、正面は身舎東寄りの鼻母屋と向拝の軒先部の2通りを補足した。
一、仏壇床下は従来の根太受が弱く床が下っていたので、根太通りに土台、束を入れ、また仏壇框も隅部に蝕害が見られたので添束を入れてそれぞれ補強した。
三、屋根工事
土居葺。屋根本瓦葺の下に土居葺を施した。葺材料は椹赤味勝材。長さ30p、巾7p以上、厚2.5oの手割板を用いた。
軒先通りは2枚重ね、以下葺足6pとし、これより2枚目毎に長さ3.6pの竹釘を横歩み3p前後2通り打ち、隅背、箕甲はいずれも道具板を拵え、平地葺足に取り合わせ格好よく葺上げた。大棟終いは同板をもって、2枚重ね馬乗りに打ち止めとした。
土留桟は巾4.8p、厚2.0pのものを約40p間隔に野 通りに釘打とした。
屋根瓦及び葺土。従来使用してあった瓦を選別し、破損瓦、近年の補足瓦、形状及び焼成の不適当なものなど不良瓦は廃棄し、全体の約4割程度を新規に補足した。
軒瓦は大部分が大正の補足瓦であったが、当初瓦と形状に差があり、その他の瓦とも焼成温度が低かったためその大部分を補足した。すなわち軒先瓦においては当初瓦を向拝に使用し、大正のものは両妻の螻羽部及び身舎の西側に再用、地瓦は当初瓦を正面中央に、大正瓦は正面の両脇と両妻に使用したほかは新規に補足した瓦を補った。道具物はすべて明治または大正のものであったので、鬼瓦、鳥衾、隅巴とも多宝塔のものにならい作製し、向拝の留蓋瓦も獅子の飾付のものを半球形のものに替えた。
向拝の掛巴、掛唐草瓦は全部を新たにしたが、身舎取付際の唐草瓦は重箱瓦を使用した。雁振瓦は衾形のものに倣い6割程度を取替え、各螻羽には袖付の二の平瓦を入れ水返しに留意した。面戸瓦は隅蟹面戸瓦のみ補足し、その他は丸瓦の不用分を拵えて使用し、熨斗瓦は古い平瓦を再用して積んだ。鬼瓦際は隅、降棟ともそぎ熨斗を拵え反り増し付とした。
新規作製の製作用粘土は、○雑物の混入しない良質の粘土を選定し、少くとも6カ月以上晒して充分練り返したものを使用、空隙など欠点のないよう丁寧に成形し、表面本磨きのうえ艶消し仕上とした。補足瓦はすべて見え隠れの部分に修理年号を刻印した。
製品の乾燥中は亀裂など生じないよう養生のうえ充分乾燥を行ない、倒焔式窯に入れ焙り充分にしたうえ、焼成温度摂氏1100度以上、長時間をかけて焼成を行ない、亀裂および甚だしい焼き狂いなく光沢一様のもので、含水率12%以下のものを使用した。
平葺土は従来の土に新土を約4割方補足し、長さ約6pの藁○を切り込み、3カ月以上の期間を置き、充分練り返した土を使用した。棟積み及び丸伏には南蛮漆喰を用いたが、漆喰調合は石灰10に対して砂4、マニラ○は石灰1袋(20s入)に対して0.4s程度の調合とした。
在来の古瓦のうち再用可能のものはワイヤブラシ、たわし等で掃除のうえ使用した。
瓦葺方。屋根葺は在来の瓦のうちの再用瓦及び葺土を支給し、請負工事として施工した。
軒先瓦は全体に割付を行った後、唐草瓦を瓦座に仕合せ、瓦座よりの出11pとし、葺土を用いて馴染よく置き、軒巴瓦は漆喰を用いて軒唐草瓦と馴染よく据え、いずれも、あらかじめ土留桟より出した16番銅線の2本撚りをもって玉口及び巴瓦銅部を繋ぎ止めた。
平瓦は瓦割りにより一通りずつ水糸を通し、葺土は平均5pに一通りを畦置きに敷込み、通りよく縄垂みに葺きあげた。
葺足は14pとし、登りは軒先部より5枚目毎に18番銅線をもって土留桟に繋ぎ止めた。
丸瓦は瓦下に南蛮漆喰を縁より出さぬよう留意して天端の通りよく伏せ置き、各通りの登り3本目毎に18番銅線をもって土留桟に繋ぎ止めた。
大棟は下より肌熨斗二辺、これより上に割熨斗八枚積、雁振瓦伏とし、棟長さ全体に反り増付とした。隅棟は肌熨斗一辺、割熨斗は稚児棟二枚、二の鬼より上は三枚とし、鬼瓦際に前者にはそぎ熨斗二枚、後者には四枚入れとし、正背面の降棟は肌熨斗一枚、割熨斗四枚、鬼際のそぎ熨斗三枚、妻の降棟は肌熨斗一枚、割熨斗二枚、鬼際にそぎ熨斗三枚入れとし、いずれも反り増付に納めた。
熨斗瓦は各々18番線にて繋ぎ、雁振瓦は一枚毎に、大棟は上端、隅棟は玉口を繋ぎとめ、鳥衾瓦も玉口と胴との2カ所に留めた。鬼瓦は10番銅線を用いて棟の控え金物に繋結した。
向拝部は軒先際の勾配の緩い範囲の平瓦は、尻部に水切付のものを各通りに12枚程度使用したうえ、この範囲は平葺土を使用せず空葺きとした。
また、両端より2通りの平瓦下には、上り約3pに厚0.3o銅板を敷込み逆水に対して万全を期した。
瓦葺後、破損瓦の有無を点検し、葺土などの附着した箇所は掃除を行った。
四、壁工事
柱間真壁のうち、西側の四間と東側の前寄りの二間分と正面の連子窓下の壁は、壁下地より施工し、その他の壁は小壁とも従来の白漆喰の上塗りを剥落し塗替えた。
壁下地の間渡し及び木舞竹とも径3p以上、4〜5年生、秋伐りの真竹割物を用い、木舞縄は径8o、機械撚りの細縄とし、間柱の繋結用には径9oの棕梠縄を用いた。間柱及び壁貫に木舞掻きを行ったが、間渡竹は間柱及び壁貫際に各1本入れ、両端は辺付及びすだち穴に差込み、間柱及び壁貫当たりは釘打にとめ、木舞竹は約4.5p間に入れて間渡竹に掻付けた。
壁塗りは荒付け、大直し、散漆喰、中塗、砂漆喰、漆喰下塗、同上塗の順に仕上げ、上塗塗替もこれに準じて行った。
外部上塗用石灰は香川県大川郡産(1袋8s)、内部及び下塗、中塗には土佐灰の上灰(1袋20s)、板海苔は銀杏草を用い、油は荏胡麻油、真苧 は野州麻を原料としたものを外部に、内部は晒○(白雪)を使用した。
荒壁用土は藁○長さ約6pに切り、新土6、古土4の混合土に1立方メートル当り約32sの程度の割に混入し、清水を加え数回練り返してねかせ、適宜水を溜めて十分に土殺しを行ない、使用時にはさらに藁○を混入して使用した。荒壁塗は木舞掻内に十分入るよう塗り込み、木舞より出した棕梠縄を放射状に塗り込んだ。
内側荒壁の十分乾燥するのを待ち裏返し鏝塗り後、大直し、散漆喰、中塗を行った。中塗調合は中塗土0.1立方メートルに砂0.05立方メートル、中○0.7sを水練りとした。
大直し乾燥後、左記調合により漆喰下塗、中塗、上塗の3回の漆喰塗を施した。
漆喰下塗(散漆喰とも調合同様)
石灰1袋 砂0.015立方メートル 並浜○0.94s 板海苔1.1s
漆喰下塗
石灰1袋 砂0.015立方メートル 油○1.13s 板海苔1.13s
漆喰上塗
貝灰1袋 晒○0.56s 板海苔0.56s 油0.36リットル
塗方は前記調合材を練り舟で鍬押え、切返しなど十分練り返したものを用い、地斑、鏝斑なく柱散際を揃え入念に仕上げた。
柱、長押等の木部際は「のれん」または長さ約15pのひげ子打ち漆喰下塗に塗込んだ。
五、建具工事
内外ともに柱間の間仕切は現状変更が行われたので、外部桟唐戸、内部の格子戸及び欄間とも、それぞれ修理または新調した。建具材は充分乾燥したもので、陽疾、狂、節などの欠点のない良質檜材を使用し、いずれも古色塗仕上とした。
側廻りは正面中央の三間、両側面前端の間、背面中央間ともすべて両開桟唐戸となるが、正面の中央間及び西寄の二間と西側面前端間の6枚は新調し、その他の6枚は修理のうえ再用した。
軸受は従来も桟唐戸構えであったので、そのまま再用することとし、軸真間隔の不適当の箇所は若干移動させて釣込具合のよいようにした。軸框は上下に杓子金物を取付け、弊軸または長押間に釣込みとし、桟唐戸上部の盲連子部分は新規に作製し篏込み、框○はいずれも1枚○による楔締め、内側より取付の縦張り板は3枚矧以内として、組立ての際、合成樹脂系の接着剤を用いた。
各扉に内部より戸締金具を取付けたが、外部よりの戸締用の「こころ」は西側面の扉とした。当初の扉のうち軸框上下の軸受となる凸部が切断されている扉2枚はこの部分のみ継木することが困難なので、杓子金物とともに造り出して釘打に取付け釣込んだ。
内陣正面の腰付格子戸は腰の部分を取除き、下框・縦框とも新たにして組直したほか、他の戸も修理のものは腐朽部分を取替え、または埋木を施した。縦框のうち召合せ框は従来どおり両戸とも見込みを大きくとり、鴨居の上げ堀に合わせて内法寸法を定めて建込んだ。横桟は中間の3本を○打抜き楔締めとした。
正面三間の菱欄間は下方の不足分を補ったが、縦框は不足分のみ継手を作って継ぎ、組子は中間に通しのものを入れて補強した。篏込み後、柱に見え隠れに釘打に止めた。
六、防蟻工事
本堂は過去において度々の蟻害を受け、かなり広い範囲に蝕痕が認められたので、建物全体に白蟻の防除及び予防を行った。
工事は和歌山市の(株)前田白蟻研究所に委託し請負工事として施工した。施工は施工箇所により土壌処理、スプレー処理、穿孔処理法とした。
処理薬剤は同社の日本白蟻対策協会認定薬剤である次の薬剤を使用した。
ターマイトン(淡黄色油剤原液) 予防駆除併用
認定番号 予防処理剤 第1020号
駆除処理剤 第2015号
ターマイトンSD(白色乳剤、水稀釈) 土壌処理
認定番号 土壌処理剤 第3012号
土壌処理は、現在、床下土間が全面モルタル塗仕上げとなっている関係上、通常の土壌処理が出来ないので、当初モルタル周辺に径15oの穴を3〜5カ所穿け薬剤の注入予定のところ、コンクリートが意外に堅く不可能に近い状態なので、コンクリートの割れより注入し礎石及び床下一面に薬剤の撤布を行った。この処理方法での使用薬剤は、20倍稀釈液を用い、稀釈倍数・撤布量(通常1uに4リットル)を適宜加減して施工した。
スプレー処理方法は基礎または特殊な箇所を除く木部に対して行ない、撤布は2回以上とし木材面1u当り0.6リットル前後とした。柱根及び各部の仕口等は特に入念に行った。また、従来行っていた柱及び縁束等の穿孔処理部分は、木栓を取り再度薬剤を一孔につき0.02リットル以上充分に注入し木栓にて埋木を行った。
七、塗装工事
本堂の内外に丹塗の痕が見られたが、これらはそのまヽとし、化粧裏板の取替えや天井板の汚損をきたしたため胡粉塗のみ行った。
施工した範囲は内外の化粧裏板と内陣及び外陣の小組天井板、側柱通りの頭貫より内法長押間の小壁板、斗○間小壁と面戸板及び妻部壁板の全部とした。
旧塗付部分は前鉋、研磨紙などを用いて素地面を痛めぬよう充分留意して丁寧に掻落とし、素地面に付着した塵埃等を刷毛または布片にて掃除し、素地拵えを行った。
塗方は、アクリル樹脂に上質貝殻胡粉とチタニュームを練合わせ充分 過したもので、塗斑のないよう下塗、中塗とも刷毛塗りとした。
八、畳工事
本堂外陣は従来どおり桁行方向6帖、梁行3帖の18帖を、床および畳表とも新たにして敷込んだ。内陣は従来、内陣周囲に仏壇際まで敷込んでいたが、内陣側面は前より第3の柱際で止め、従来の畳を再用した。
畳寸法は現場を計測し畳割りに従がい正しく切り合せて畳拵えのうえ、畳寄せとの段違いなく隙間及び不陸のないように敷込んだ。
畳表は経糸30番手以上、備後産、本口、引通し、麻経引通し表とし、1枚の重量が1.5s以上のものとした。畳床は機械製新床、菰10通堅牢に刺立て1枚の重量は26s以上とし、縁は本麻光輝縁で金七宝縁(黒字に金の刺繍)を用いた。
頭板は姫小松削板巾6p・厚4p片刃形、縁下紙はハトロン紙2枚重ね、縫糸は「ラミー」紡糸上等品を用い、刺付けは2.5pとした。
九、避雷針及び火災警報装置の復旧工事
従来より施設してあった避雷針は、工事のため屋根にかかる範囲を一たん取外し、警報装置の空気管は向拝軒廻り、縁下の配管を部材取替えのため一時切断したので、これらを復旧した。
避雷針の大棟の布設導線は歪み、曲りなど不良部分を補正し、線止金具は従来どおり大棟々積瓦に取付けて導線を固定させた。
大棟より本堂背面の2本の引下導線(2oФ×19本撚り)は導線の接続部を鑞付とし、従来平瓦の木口より差込んでいた線止金具は取止め、各降棟の側面に取付けた。降棟より軒先までの間は丸瓦上端を抱合わせた金具を作り、引下導線に垂みのないよう取付け、工事終了後、接地抵抗試験を行った。試験の結果、各導線とも7Ωであった。
火災報知器の空気管は切断部分を補充し、従来どおり取付けた後、試験を行ない充分作動するよう点検した。
一〇、古色塗り及び烙印
取替または補修材には古材と調和のよいよう、外部に面した材はトーチランプにて表面を炭化させた後、ワイヤーブラシで摺り、さらに古色塗を施した。内部材はアンバー粉の水溶液をもって布拭きして古色塗を施した。
補足材の見え隠れには「昭和四十七年修補」の烙印を焼き付けた。
一一、修理銘板
工事終了後、重修銘板を作製し来迎壁の背面側に取付けた。銘板は厚2o、縦25p、横66pの銅板に陰刻し、四隅及び上下の中間に銅製留釘打をして取付けた。