国宝 長保寺本堂修理工事報告書

昭和47年9月
編集 社団法人 和歌山県文化財保存会
発行 長保寺
     


 当長保寺は、旧紀州徳川家の菩提寺として由緒のある天台宗の寺院で、その本堂は鎌倉期、延慶4年の再建になり、その優れた建築手法と、その時代の特性を示す価値を認められて、昭和28年3月、文化財保護法により国宝建造物に指定されたものであります。
 本堂は建立後、永年の風雪に耐えて今日まで護持されてきたものの、近年堂宇の傷みがようやく加わり、関係者一同相計り、文化庁の指導援助により、今回の修理の運びとなりました。
 修理事業の総経費2390万円、国並びに県、町から多額の補助をうけ、昭和46年10月着工、工期12か月を要して、屋根葺替を主とする部分修理が行われ、同47年9月、滞りなく完了しましたが、内外の間仕切装置の復原をも併せて行ったので、時をしのぶ雄姿の再現をみるに至りました。
 寺院はもちろん、地元一同の喜びこれに耐えるものはなく、この貴重な国民的文化財を永く後世に伝える信念をあらためて強くするものであります。
 この報告書は工事の記録と、工事中の調査に基づく各資料をまとめたものでありますが、当寺には本堂のほかに大門、多宝塔、鎮守堂が国宝または重要文化財の指定をうけ、明治から昭和初年にかけてそれぞれ解体修理をうけておりました。しかし、いずれも報告書が出版されていないので、この機会にあわせて掲載し、これらの文化財をひろく紹介するとともに、後世に伝える資料として各界に利することの多きを期待している次第であります。
 終りに、終始専門的立場から指導を賜った文化庁担当官、工事の全般を委託されその遂行とこの報告書の編集に当られた社団法人、和歌山県文化財研究会、また、本書の出版のため心よく図面の貸与の労を下された文化庁文化財保護部建造物課、その他関係各位に対して心から謝意を表します。

昭和47年9月  長保寺住職  瑞樹英海


例言

  1. この報告書は、当長保寺本堂修理に関する国庫補助事業の一部として刊行されるものである。
  2. 編集に当っては、今回の工事の概要のほか、工事中の調査事項、発見物およびこの建物に関する各種参考史料などをまとめた。
  3. 図面、および写真については工事中作製または撮影した多数のうちから撰んだが図面については、記録保存図(原図は文化庁に提出、同庁保管)とその他の説明図を、写真については修理前後並びに工事中の記録と各種資料写真の主要なものを掲載することとした。
  4. 本文、図面とも表示寸法はメートルによったが、必要に応じて尺を併記した。
  5. 編集担当  社団法人 和歌山県文化財研究会
    総括、監修 文化庁指導担当官 工藤圭章
    本文     工事主任       岩下敏也
    図面     主任補佐       長谷川晋平
    写真(竣工) 京都市        真陽社  
  6. 寺院の沿革の調査については和歌山県文化財専門審議会専門委員 松本保千代氏の労を多くわずらわせた。
  7. 文中の●は原典から解読出来なかった字、○はJISに無いためHTMLに出来なかった字を表す。


国宝長保寺本堂修理工事報告書

目次

第1章 長保寺の概要

 第1節 文化財指定
 第2節 創立沿革
 第3節 長保寺の史料
 第4節 本堂の建立と後世の修理

第2章 建造物(本堂)概要

 第1節 規模
 第2節 構造形式

第3章 修理工事の概要

 第1節 工事組織
 第2節 工事経過
 第3節 工事方針
 第4節 施行の概要
 第5節 現状変更
 第6節 工事仕様
 第7節 工事費
第4章 調査
 第1節 破損調査
 第2節 各部の構造形式及び技法に関する調査
第5章 資料
 第1節 発見物、銘文
 第2節 参考資料  大正修理時の仕様書