心経玄談 4


長保寺蔵 隅寺心経

今時、語句の意味が知りたければ、ネットで検索すれば、およそのことがわかります
それで、ここでは、検索しても知ることのできない、もっと重要なことを書きたいと思っています

般若心経の最後の部分では、呪を絶賛しています

「これは大神呪、大明呪、無上呪、無等等呪である
よく一切の苦を除き
真実にして不虚なり」

羯諦羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶
(ぎゃーてい、ぎゃーてい、はらぎゃーてい、はらそーぎゃーてい、ぼーじそわか)
(隅寺心経の文字は、現在使われていない文字が含まれています)

さて
呪と真言は、決定的に別物です
なんのこっちゃ、です

一般的に言って、真言は、たとえば、お地蔵さんがオンカカビサンマエイソワカ、とか、大日如来がアビラウンケンなどは、大日如来が色究竟天(しきくきょうてん)で説いたものを、竜樹(インドのお坊さん)が感得して書き記したものです
ですから、お釈迦様が説いた「仏教」ではなくて「密教」です

般若心経の呪は、お釈迦様が霊鷲山で説いたものです
(弘法大師の著作である般若心経秘鍵に、弘法大師が前世に霊鷲山でお釈迦様から直接聞いたと書かれています
現在の仏教文献学のレベルで検証しても、霊鷲山で説かれたことを否定する材料は出てきていません)

真言ーーーーーー>大日如来が説いた
般若心経の呪ーー>お釈迦様が説いた

これが、決定的違い、ということですね
まあ、大日如来が説いたものを竜樹が感得した話(真言)と、弘法大師が前世に霊鷲山でお釈迦様から直接聞いた話(呪)ということで、いい勝負といったらあれですが、仏教の最も神秘的な部分ではあります

般若心経の場合、呪だけ取り出して、そこだけ唱えるということはあまりやられていません
頭から、般若心経全部読んで、一巻読誦ということです

ですが、たとえばチベット仏教では、呪部分だけを、これは頭にオンをつけて
おん、ぎゃーてい、ぎゃーてい、はらぎゃーてい、はらそーぎゃーてい、ぼーじそわか
と繰り返し念誦する方法が実際あります

弘法大師の立場に立てば
「顕薬塵を払い、真言蔵を開く」
で、「呪」以外は薬の能書きで、功徳のある部分の呪だけ念誦するのもありかなと思います
(現在、高野山では理趣経、観音経、般若心経は常用経典として用いてますから、すべての漢文経典が、ただの能書きということではないようです)

これ、天台密教からすると、漢訳経典の漢文の部分も、不可思議な加持力があることが認められているわけで、経巻全体を読誦するのもありです
(天台では、法華経、阿弥陀経、般若心経は密教に分類されてます)

伝説では、三蔵法師玄奘が中国からインドに旅に出たとき、般若心経の呪の部分だけを菩薩から感得したとも言われていて、呪だけ念誦するのは、仏教の神秘的世界観からすれば、普通のことと言っていいと思いますけどね