色即是空 なぜ色が先か

隅寺心経 奈良時代 長保寺蔵

 

般若心経の話です

ほとんどの人にとって、あまり関心のないことかもしれませんが、実は重要です

般若心経の有名な一節に「色即是空、空即是色」という部分があるのですが
図式で表すとこうなります

我々は外界を感覚器官で感じて、それを脳内に再構築することで認識しています
この時、自分勝手な解釈とか、思い込みや誤解で、認識に歪みが生じ、それが諸々の不幸の根本原因になっていきます

感じるのをやめてしまえば、「空」だけが残りそうなのですが、生きている限り、感じることは停止しません
では、極端な話、死んでしまえば「色」が消えて「空」だけになるかというと、我々の生存そのものが「空」の一部分なのですから、「歪んだ認識」が「空」に刻み付けられたままになります
なかなか、「厄介な問題」です

さて、般若心経では「色即是空、空即是色」と順逆説く時に、「色」を先に説いています
ここに、実は、般若心経なりの、この「厄介な問題」の解決策が示されているのです

般若心経の冒頭に

観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時
観自在菩薩が、深く般若波羅蜜(向こう岸に至る智慧)を行じたまいし時に

度一切苦厄
一切の苦(苦痛)と厄(災害や事故)を度(解決)したまいき

とまあ、書かれているのですが、今風に言えば

我々(菩薩)が、なにものにもとらわれず自由に(自在)深い知恵で(深般若波羅蜜観察(観)すると(行)諸々の問題を解決できる(度一切苦厄)

ということで、ありったけの智恵と知識で、物事を固定観念や思い込みから離れて深く観察することで、問題を解決することができる、と説いているのです

般若心経にしたがって解釈すれば、それは
照見五蘊皆空
「五蘊(色蘊・物質、受・感受作用、想・表象作用、行・意志作用、識・認識作用)は皆、空なりと照らし見ることで解決する」と説かれているわけで
なにごとも、因縁果報の連続であり、原因があって、縁があって、結果となって、それがまた原因となってと繋がっていくということを深く認識すれば、問題が解決に導かれると考えているわけです

般若心経の立場としては、先入観や固定観念にとらわれずに因果を深く観察することが、「色」の歪みを正す方法であって、問題解決にとって重要だ、ということです
因果を深く観察して歪みの無い認識を構築して(色即是空)、歪みのない認識によって創造された世界を生きるのです空即是色)

たとえば
川に橋を架ける時、まだ誰もそこに橋が架かっているのを見たことはありません
川をよく調査し、綿密に橋を設計し、注意深く新たな橋を建設します(色即是空)
そうすれば、両岸の人々の暮らしが劇的に便利になります(空即是色)

あるいは、単純に言って、なぜそうなったか原因を問わないで、結果だけ問題にする人があまりに多いのですが、なかなかそれでは事態が好転しないのです

先ずは、先入観や思い込み無く、因果を深く観察しなければなりません
つまり、色即是空の色が先なのです

 

図解 般若心経

心経玄談